
言語・準拠法・管轄という三つのスイッチ
外国法を準拠法とする合意は有効ですが、タイ所在の不動産、会社登記、労働関係、強行法規に関わる部分にはタイ法が適用されます。日本法を準拠法としながらタイで担保を実行する設計は、双方で機能しないことがあります。
タイの裁判所では、タイ語以外の文書に認証付きのタイ語訳が必要です。相手方が用意した訳が正本として扱われる事態を避けるため、締結時にタイ語版を用意し、「タイ語版を正本とする」または「英語版を正本とし、タイ語版は参考訳」と明記します。どちらでも構いません。書かないことが問題です。
違約金・手付金・損害賠償:過大な定めは減額されます
タイ民商法典は、過大な違約金を裁判所が減額できると定めます。日額2%の遅延金や既払金の全額没収といった条項は、訴訟で大幅に減額される例が多くあります。実損に連動した算定式のほうが、結果的に満額認容されやすいという逆説があります。
手付金(マッチャム)と前払金は法的効果が異なります。手付金は違約時に没収または倍返しの対象になり得ますが、前払金は原則返還です。文言が曖昧だと、この区別の判断を裁判所に委ねることになります。金額・性質・発動条件を同時に定めます。
類型別に現れるタイ固有の落とし穴
販売店・代理店契約:タイに一般的な代理店保護法はありませんが、著しく不公正な解除は権利濫用と評価され得ます。通知期間、在庫買戻し、顧客リストの帰属を明記してください。合弁契約は定款との整合が不可欠で、定款に記載のない決議要件は株主総会で対外的に主張できません。
賃貸借:3年を超える不動産賃貸借は土地局での登録が必要で、未登録なら3年を超える部分は執行できません。業務委託では付加価値税・源泉徴収税の負担と、恒久的施設(PE)認定の有無に注意します。秘密保持・競業避止は期間と範囲が過大だと縮減されます。
紛争解決条項:仲裁と訴訟の実務的な違い
タイはニューヨーク条約の締約国であり、外国仲裁判断のタイでの承認・執行は比較的予測可能です。相手方の主要資産がタイにあるなら、タイ仲裁院(TAI)やSIACが選択肢になります。仲裁地・言語・仲裁人の数を明記することが要点です。
一方、外国裁判所の判決はタイで直接執行できず、タイで改めて提訴し、外国判決は証拠として扱われます。相手方の資産がタイにある場合、外国裁判所の専属管轄は最も不利な選択になりがちです。国際契約では毎回この点を個別に確認します。
よくあるご質問
- 英語のみの契約書でもタイで有効ですか。
- 有効です。ただし訴訟になれば認証付きタイ語訳の提出が必要で、3年超の賃貸借など登録を要する文書はタイ語版が必須です。締結時にタイ語版を準備し、優先言語を明記しておくことを勧めます。
- 電子署名は使えますか。
- 電子取引法により電子署名の効力は認められています。本人確認と非改ざん性の確保が信頼性を左右するため、高額契約では検証可能なプラットフォームを用い、監査ログを保存してください。不動産登記関係は紙と窓口が必要です。
- 会社印(トラサープ)を押せば有効になりますか。
- 拘束力の要は、登記された権限のある取締役が登記どおりの方式で署名することです。会社印の要否は定款次第です。権限のない者の署名は会社が拘束力を否定できるため、締結前に最新の会社登記書類を取得して確認します。