
管轄・時効・提訴:最初の一手を誤ると振り出しに戻ります
管轄は被告の住所地または債務履行地が原則です。訴額30万バーツ以下は少額手続、30万〜500万バーツは県裁判所、それを超えると労働・税務・知的財産国際貿易・破産などの専門裁判所が関わります。裁判所の選択を誤ると補正ではなく却下となり、その間も時効は進行します。
主な消滅時効は、一般の契約上の請求10年、商人間の売買代金・役務報酬2年、不法行為は知った時から1年かつ行為時から10年、手形債権3年です。書面による承認、一部弁済、提訴で中断します。受任後まず時効の期限を案件計画書の冒頭に明記します。
仮差押え:判決に意味を残すための手続
提訴時または訴訟係属中に、不動産の差押え、預金の凍結、株式譲渡の禁止を申し立てられます。要件は財産隠匿のおそれの疎明で、通常は担保の提供を伴います。結果を左右するのは判決よりもこの保全の成否であることが少なくありません。
相手方は訴状送達を受けた時点から資産を動かし始めます。したがって保全申立ては訴状と同日に提出するのが実務です。準備段階で土地局・商務省・自動車登録の資産調査を行い、差押えに値する対象があるかを確認してから担保費用を負担します。
審理の進み方:書証が中心、証人は補強
タイの裁判所は書証を重視します。契約書、残高確認書、受領書、チャットや電子メールも証拠になりますが、タイ語以外の文書には認証付き訳文が必要で、原本を法廷で示せる状態にしておく必要があります。証人尋問は書証を説明するための手続です。
審理は集中方式で、数日連続の期日で立証を終えるのが通例です。日本から証人を呼ぶ場合、渡航は一度で済みます。ビデオ尋問は事前申請と理由の説明が必要で、早期に申し立てるほど認められやすくなります。
判決後:回収こそが本番
控訴期間経過後に執行を申し立てられ、期間は判決確定から10年です。執行官のもとで不動産の差押え・競売、預金や給与の差押え、第三債務者に対する債権の差押えを行います。被告が法人の場合、取締役や株主の責任追及と組み合わせることもあります。
資産が国外にある場合、タイの判決をそのまま執行することはできず、資産所在国での承認手続が必要です。そのため国際取引では、契約段階で訴訟ではなく仲裁を選ぶことを勧めています。ニューヨーク条約のもとでの執行のほうが道筋が明確です。
よくあるご質問
- 日本法人が直接タイで提訴できますか。
- できます。タイに拠点がなくても構いません。認証済みの登記事項証明書と委任状にタイ語訳を添付します。タイ国内に資産がない原告に対し、被告が訴訟費用の担保提供を求めることがあります。
- 弁護士費用は相手方に請求できますか。
- 全額の転嫁は原則できません。敗訴者負担分は裁判所が裁量で定めますが、実際の支出より大幅に低額です。提訴の可否を検討する段階で、弁護士費用は自己負担として計算に入れてください。
- 被告が国外にいる場合、送達はどうなりますか。
- 外交ルートまたは司法共助による送達となり、通常6〜12か月を要します。被告がタイに営業所や代理人を有する場合は国内送達が可能で、期間は大きく短縮されます。提訴前に送達経路を確認します。