
法人処罰と「適切な措置」の中身
NACCのガイドラインは適切な措置を8要素に整理します。経営トップのコミットメント、リスク評価、高リスク事項への強化策、子会社と取引先への展開、健全な会計と内部統制、人事方針、通報制度と通報者保護、定期的な見直しです。外資系子会社で欠けやすいのは、通報制度と定期的な見直しの二つです。
取引先への展開は見落とされがちですが、通関業者、許認可コンサル、販売仲介はリスクが最も高い領域です。契約に腐敗防止条項を置き、支払は検証可能な役務に対応させ、コミッション率には根拠を持たせます。「コンサルフィー」という費目と丸い数字の組合せは、調査で真っ先に問われます。
接待・贈答・ファシリテーションペイメント
タイでは公務員の受領する利益に価額基準があり、基準を超える贈答は申告対象です。企業としては、法定基準より低い社内基準を設け、事前承認を必須とし、目的と参加者名簿を保存するのが安全です。いわゆるファシリテーションペイメントに、タイ法上の適用除外はありません。
日本の親会社が関与する場合、不正競争防止法の外国公務員贈賄罪や、米国FCPA、英国Bribery Actにも同時に適合させる必要があります。グループ方針とタイの現場実務の差は、現地手順書で明示的に処理すべきであり、現場の判断に委ねてはいけません。
内部調査:順序を誤ると証拠も秘匿特権も失われます
標準的な順序は、調査範囲とチームの確定、電子データと文書の保全(メール、チャット、ERPログを含む)、支払と承認フローの突合、最後にヒアリングです。先にヒアリングを行うと証拠隠滅の時間を与えることになり、実務で最も多い失敗です。
保全にあたってはPDPAと労働法上の制約に注意します。従業員の端末や通信の確認には、事前の方針と適法根拠が必要です。ヒアリングでは立場と目的を説明し、弁護士が主導して秘匿特権を可能な限り維持し、記録を逐一残します。
刑事・民事・行政の三本線を同時に管理する
公務員が関わる事件はNACCまたはPACCが調査し、重大経済事件はDSI、資金洗浄部分はAMLOが扱います。AMLOは資産の凍結と没収の権限を持ち、凍結口座の解除には別途の手続と期限があります。
会社側は同時に民事回収と人事処分も進めます。刑事告訴と民事請求は並行できますが、主張は一貫している必要があります。労働手続での譲歩は刑事手続で引用され得ます。三本の線のスケジュールを一枚の表で管理してください。
よくあるご質問
- 従業員が仕入先からリベートを受け取っていました。会社の責任になりますか。
- 従業員個人の利得であれば、会社は加害者ではなく被害者の立場で刑事告訴と民事請求が可能です。ただし基本的な内部統制を欠いていた場合、管理責任を問われ、グループ全体のコンプライアンス上の瑕疵とも評価されます。
- 許認可の代行業者から特急料金を求められました。支払えますか。
- まず法定手数料であり正式な領収書が得られるかを確認します。正式領収書が出ない、公定額と一致しない支払は拒否し、上位にエスカレーションしてください。まさに法人処罰条項が想定する場面です。
- 調査で贈賄の事実が判明しました。自主申告は有利ですか。
- 自主的な協力と是正は、量刑や罰則で有利に働き、適切な措置の抗弁も支えます。ただし申告の時期・範囲・文書の書き方が結果を左右するため、申告前に法的評価を完了させてください。