
月次の流れ:三つの申告と二つの締め
毎月必要なのは、源泉所得税申告(PND1)、社会保険申告(SSO 1-10)、そして給与の支給です。それぞれに期限があり、電子申告では数日の猶予がありますが、遅延の過料と延滞金は月単位で積み上がり、金額は小さくとも監査で記録に残ります。
二つの締めとは、給与期間と申告期間です。月中入社、月末退職、月をまたぐ残業や欠勤は帰属期間を明確にします。紛争の多くは「何日締めか」という小さな取り決めが就業規則に書かれていないことから生じます。
残業・休暇・最低賃金の計算基準
所定労働日の残業、休日労働、法定休日労働で割増率が異なり、月給者の時間単価の換算方法も定められています。管理職だから自動的に残業代が不要になるわけではなく、適用除外の可否は肩書ではなく実際の職務内容で判断されます。
年次有給、傷病休暇、私用休暇、産休はそれぞれ有給の範囲が異なり、未消化分の繰越と精算は就業規則と法令の有利な方によります。最低賃金は県ごとに改定されるため、複数県に拠点がある会社は個別に適用します。本社の数字で一律に処理するのはよくある誤りです。
駐在員:居住者判定と社会保険の二つの分岐
外国人でも一暦年に183日以上タイに滞在すれば居住者となり、課税範囲と申告義務が変わります。給与の一部を本社が国外で支払う場合、その部分のタイでの課税と申告方法は着任前に決めておくべきで、後からの修正は高くつきます。
労働許可を持つ外国人も原則として社会保険の対象です。本国の社会保険との二重負担は、二国間の取決めの有無によります。医療や傷害の民間保険で不足分を補うのは一般的ですが、法定義務の代替にはなりません。
退職時精算:最も訴訟になりやすい一枚
退職時精算は未払賃金、未消化年次有給の清算、要件を満たす場合の解雇補償金で構成されます。解雇補償金は勤続年数に応じて段階的に定められ、従業員の非によらない解雇では支払が必要です。予告がない場合は予告手当も別途生じます。
精算書は項目ごとに算定基礎と期間を明示し、本人の受領署名を得ます。実務では精算と退職関係書類を分けて処理し、「署名時に内容を知らなかった」という主張を防ぎます。金額に争いがある場合、争いのない部分を先に支払うと、その後の利息と付加負担を大きく抑えられます。
よくあるご質問
- 給与を現金で支給してもよいですか。
- 技術的には可能ですが、銀行振込の記録のほうが雇用主を守ります。争いになれば支払の事実は雇用主が証明する必要があり、現金の受領書が欠けたり真正を争われたりすると立証は極めて不利になります。
- 試用期間中の解雇でも補償金は必要ですか。
- タイ法に独立した試用期間の免責制度はありません。補償金の要否は勤続期間が法定の区分に達しているか、予告があったかで決まり、試用期間という呼称とは関係しません。
- 本社払いの駐在員給与もタイで申告しますか。
- 勤務がタイで行われる以上、原則としてタイ源泉所得となり、支払地が国外でも申告が必要です。租税条約による軽減の可否は、滞在日数、費用負担者、恒久的施設のリスクを合わせて判断します。