
判決と仲裁判断——難易度の差
外国裁判所の判決を、タイで直接強制執行することはできません。実務上は同一債権についてタイで提訴し、認証と翻訳を経た判決書、送達証明、確定証明を債権の存在を示す有力な証拠として提出します。裁判所は改めて審理しますが、完備した記録があれば立証過程は大幅に短縮されます。
外国仲裁判断はニューヨーク条約に基づき承認執行を申し立てます。裁判所は条約が列挙する限定的な抗弁事由のみを審査し、実体の再審理は行いません。タイ企業との契約で整った仲裁条項を置く価値は、数年後の執行局面で現実化します。
提訴の前に資産調査を行う
資産のない勝訴に意味はありません。調査可能な公開情報には、商務省の会社登記と財務諸表、役員・株主関係、土地局の不動産保有状況、車両・機械の登録、他の債権者による差押えの有無があります。
併せて資産移転の兆候も見ます。直近の不動産名義変更、関連法人の新設、持分の異動などです。兆候があれば提訴と同時に保全を申し立て、債権者を害する行為の取消しを主張することも検討します。順序を誤ると、判決時には対象財産が残っていません。
保全・差押え・競売
訴訟中の仮の保全は、担保の提供と、緊急性および債権の一応の成立の疎明が前提です。債務名義を得た後は、執行部門へ不動産、車両、預金、売掛債権の差押えを申し立て、競売手続に進みます。
競売は複数回の期日を要することが多く、その間に第三者異議、優先債権者の主張、債務者からの分割弁済の申出などが生じます。着手前に正味回収見込額と所要期間を試算し、費用が回収額を上回る事態を避けます。
個人債務者と越境案件の実際
個人債務者については、生活に必要な財産と一定額の給与が保護され、全額を差し押さえることはできません。名義上の財産がないのに生活水準が明らかに見合わない場合、関連会社、名義借り、家族名義の財産へ手がかりを広げますが、推測ではなく裏づけのある証拠が必要です。
越境案件では時効と、自国での手続進行がタイの手続に与える影響も検討します。実務上は二本立てを勧めています。タイで保全を進めつつ自国の手続も維持し、いずれかで執行可能な財産が判明した時点で直ちに動ける体制を作ります。
よくあるご質問
- 日本の判決はタイでまったく役に立たないのですか。
- そうではありません。直接の執行はできませんが、タイでの再訴において債権関係、金額、審理経過を示す重要な証拠となり、手続の短縮に寄与します。完全な認証とタイ語訳、送達および確定を示す書面の添付が前提です。
- タイで再訴した場合、相手は改めて反論できますか。
- できます。タイの裁判所は独立して審理し、相手方は時効、弁済、相殺などを主張し得ます。したがって、想定される抗弁を先に洗い出し、対応証拠を準備したうえで提訴することが重要です。
- 相手名義の不動産を見つけました。すぐ差し押さえられますか。
- 保全命令または債務名義を得るまで差押えはできません。保全には担保提供と緊急性の説明が必要です。不動産の名義変更は実務上短期間で完了し得るため、発見後は速やかに手続を開始してください。