
仲裁が向く案件、向かない案件
国際取引、国外での執行が必要な場合、秘密保持を重視する場合、争点が高度に技術的な場合は、訴訟より仲裁が適します。仲裁判断はニューヨーク条約により多数の締約国で承認執行を求めることができ、これはタイの裁判所判決では得にくい利点です。
逆に、少額案件、相手方資産がタイ国内に限られる場合、あるいは仮差押えを急ぐ場合は訴訟が合理的です。仲裁は初期費用が高く前払いのため、途中で損切りしにくい点も考慮します。締結段階で想定紛争規模を見積もってから条項を選びます。
機能する仲裁条項の構成要素
機関の正式名称、適用規則、仲裁地、手続言語、仲裁人の人数と選任方法、準拠法、費用負担の原則。略称や旧名称の記載は最も多い瑕疵で、条項が不明確とされ裁判所へ差し戻される要因になります。
請求額が読めない場合は段階設定が有効です。一定額以下は単独仲裁人、超える場合は三人廷とする、あるいは紛争発生後三十日間の調停前置を置き、不調の場合に限り仲裁を申し立てる、といった設計で交渉余地と時間管理を両立させます。
手続の流れ・期間・費用の目安
申立て後、仲裁廷の構成、手続協議、主張書面の交換、証拠と証人尋問、審問、審問後書面を経て仲裁判断に至ります。通常の商事案件で一年から二年、複雑な建設案件はさらに長期化します。費用は機関費用、仲裁人報酬、弁護士費用で構成され、前二者は請求額に応じて前払いとなります。
暫定措置は仲裁廷に申し立てられるほか、緊急時には裁判所へ保全を申し立てることもでき、これは仲裁合意の放棄にはあたりません。資産移転の兆候があるときは裁判所ルートのほうが速いのが実情です。
判断が出た後——取消しと執行
タイ法上、仲裁判断の取消事由は限定的で、仲裁合意の無効、重大な手続違背、判断範囲の逸脱、公序違反などに限られます。実体判断への不服は取消事由にならない点が、しばしば誤解されています。
執行は管轄裁判所への申立てによります。外国仲裁判断も条約の枠組みで処理されます。実務上の障害は法律論ではなく、相手方のタイ国内資産を押さえ損ねることです。当事務所は判断が出る前に資産調査を終え、直ちに執行へ移れる体制を作ります。
よくあるご質問
- 契約に仲裁条項がありません。今から仲裁を選べますか。
- 紛争発生後に双方で仲裁合意を締結すれば可能です。ただし訴訟が有利な相手方は応じないのが通常で、実質的には契約締結時の一度きりの選択になります。
- 仲裁は訴訟より本当に速いですか。
- 第一審相当の手続は速く、上訴がない点も大きな差です。タイの裁判は三審制で数年に及ぶことがあります。一方で費用は前払いのため、少額案件では総コストが上回ることもあります。
- 国外で得た仲裁判断をタイで執行できますか。
- できます。タイはニューヨーク条約の締約国であり、裁判所は条約所定の限定事由のみを審査し、実体の再審理は行いません。申立期限と、認証・翻訳の要件に注意が必要です。